「訪問販売」というと、どうしても、悪質な業者が消費者を騙して・・・というイメージがありますが、ここでは視点を変えて、業者側からのことを書いてみたいと思います。そこには意外にも、「善良な」業者に同情すべき現実もあります。ここでは建設業者のことを書いてみたいと思います。
「善良な」建設業者なのに・・・
建設業者は、その規模の大小を含めて「工事」を請け負って施工するわけですが、これが小さい規模の工事となるとそこに「訪問販売」との接点が出てきます。例えば、家の外壁の一部を塗り直すとか、屋根の小さな箇所の補修をするとか、水道の具合が悪いのでちょっとした部品交換をするとかなどです。これらはすべて「建設工事」であり、そしてそれらは一定の場合に『特定商取引に関する法律』上(以下「法」といいます。)の「訪問販売」に該当します。
この「訪問販売」に該当する場合においてクーリングオフ制度というものがあることは周知ですが、実は、これが“消費者保護”とは別の方向で作用している事例があります。つまりは、消費者が工事を頼んで、その消費者の自宅で契約し、そして工事が契約書面等の交付(受領)日から1~3日ぐらいで終わったとして、しかしクーリングオフによって消費者が当該工事の契約の申込みを撤回するというものです。
この場合、建設業者側としては、すでに終わった工事について、代金は返さなくてはならないし、原状回復といっても物理的にムリ(*塗装工事などは原状回復不能は明らかですが、水道工事などに使った部品など一度取り付けると“中古品”となってしまい他には使い回しなどはできなくなるようです。)だし、経済的にも赤字(*工事場所が遠い場合などは交通費、人件費なども少額ではありません。)になるし、そして結局は泣き寝入り、というものです。
これがいわゆる「悪質な」業者であれば、法の目指すところの“消費者保護”となるのでしょうが、「善良な」業者の場合には何とも痛ましい現実です。このようなことが起こる原因はいくつかありますが、その一つは、建設業者が法を知らないというところにあります。
私の知っている「善良な」建設業者の方々は、“営業”手段として、いわゆる消費者の「戸別訪問」などは行いません。そもそも、一般的には、大手の下請けとしてや一定規模の役所の工事を請け負うような建設業者の方々の取引先は個人消費者ではありません。しかしながら、地元の優良企業として活躍され、地域密着にて住民の方々のために仕事をされている「善良な」建設業者の方々は、そのような個人の消費者からの要求、要望にも一所懸命に応えようとします。ですから、先のような“仕事”も引き受けるわけです。
“請求訪販”
ここで注意しなければならないのは、その工事が、その業者が、法上の書面交付義務規定やクーリングオフ制度の適用を受けるのか否かということです。先にも書きましたが、「戸別訪問」の“営業”をしない建設業者の方々のところには、当該消費者のほうから「ウチの外壁塗ってくれないかなあ。」とか「排水の具合が悪いので修理してくれないかなあ。」とか「雨漏りするから直してよ。」などの依頼(注文)があるのが一般的です。
この場合、当該消費者は、わざわざ業者の営業所に出向くなどという煩わしいことはせず、「契約書なんかはウチでハンコ押すから、ウチに来てね。」旨(*当然、見積りのみとかいうものではなく、完全な工事の注文(申込み)、契約のために呼ぶのです。)のことを業者に対して言うのです。
実はこれは法上はいわゆる“請求訪販”(特商法26条5項1号-消費者のほうから自宅にて契約の申込みまたは締結を請求した場合のこと-)ということになり、書面交付義務やクーリングオフ制度などは適用されません。
「善良な」建設業者が知っておくべきこと
ここが問題なのですが、やはり、地方の「善良な」零細建設業者の方々はこのような法の定めを当然ながら知らず、注文者である消費者から、工事が完了している(*契約書面等の交付(受領)日から8日以内である。)にもかかわらず、「クーリングオフします。代金返して下さい。」と通知を受け、素直に返金に応じ、しかし施工前の状態には物理的、経済的に戻せず、消費者はそのままその工事による経済的利益を受けてその後も生活するということになるというものです。
もちろん、排管の工事に行って、その場(消費者の自宅)で、本当の“親切心”から、「水道のパッキンも腐ってますから交換しときますね。」などとなれば、それは立派なクーリングオフ制度の適用を受ける「訪問販売」です。しかし、その「善良な」建設業者の方々は、その部分のみクーリングオフとは考えずに、前述のような工事も併せて“撤回”というように受け取ります。これが現実の、現場の状況なのです。
このような場合を想定して、もし現場で“真の”(善良な)プロの目から見て、その消費者にとって必要な工事の施工をなす場合には、その場(消費者の自宅)で契約せず、あるいは法上の書面等交付等義務を漏れなく履行できる状態で消費者宅を訪問する、または消費者からどんなに急かされてもクーリングオフ期間の経過を待って工事に着手するということを心掛けるべきでしょう。
消費者<業者 って本当?
重ねて言いますが、業者が“悪徳”(*不必要かつ高額な工事の契約をさせ、さらにはその工事も適当かついいかげんなどの場合)であれば、そのようなクーリングオフ制度等の適用は立派に“消費者保護”でしょう。しかしもしそうでなかったら・・・。その逆であったら・・・。
もし、そのような「善良ではない」消費者がいたとして、初めから業者を騙すつもり(原状回復措置が物理的、経済的に不能であることを知りながら工事を完了させといて、その後クーリングオフ期間内にクーリングオフするということ。)であったか否かなどということはまず立証不可能であるとすれば、そのような「善良な」業者は泣き寝入りするしかありません。もちろん、消費者だって、単純に、法の定めを知らずにクーリングオフを行っただけかも知れません。そうであるならばとても不幸なことです。消費者にも悪意がなく、業者も善良・・・。
このような痛ましいことが起こる原因のもう一つが、現実としての力関係が、消費者>(「善良な」)零細業者ということです。世間的には情報、知識を持った業者が、無知な消費者に対するという図式が一般的でしょうが、現実には必ずしもそうではありません。ここで出した「善良な」建設業者の方々は、建設工事についてはプロですが、法についてはシロウトです。したがって、法上での図式である、消費者<業者ということは成立しないことがあるのです。
では、このような「善良な」建設業者の方々をだれが保護するのか。
真の“専門家”がなすべきこと
我々行政書士は、クーリングオフというものに関してであれば、ほぼ100%“消費者保護”の立場で仕事をする(している)でしょう。他方、建設業者との関係であれば、許認可申請などの“手続代理・代行”者としての仕事が殆どでしょう。
しかしながら、その建設業者も立派な“市民”(国民等)です。消費者だけが“市民”(国民等)ではありません。行政書士は、このように、実は、逆とも言えるような視点に立って、許認可等申請等の代理・代行の仕事という一面的、一般的なものに限らず、本当の意味での「国民の利便に資する」ことも必要なのではないかと思うのです。<おわり>
正に仰せの通り。約30年業界に居たら施主からの苛め、ありますので参考に致します。
榊原様、コメントありがとうございます。
当職が最も言いたかったことは、常に消費者が「善」ないしは「弱者」という図式ではないということです。当職の、永年建設業者の方々とお付き合いさせていただいた、率直な感想です。