一筆啓上/法改正・新制度についてなど

行政書士はそのお客様に「マイナンバー」を提出するの?

さて、平成28年(2016年)もそろそろ押し詰まってまいりましたが、この時期、企業等では年末調整や源泉徴収票などの「法定調書」の作成等の事務に取り掛かり、もしくはすでにそれに追われているものと思います。

今般は、その中で、平成28年1月1日以降の金銭等の支払等にかかる「法定調書」に記載しなければならないとされている「マイナンバー」につき、特に、行政書士(個人事業主である場合に限る。以下同じ。)がそれ(マイナンバー)を、お客様から提出するよう言われた(当然、文書で提出要請があったものも含めます。)場合、提出しなければならないのか否かなどにつき、書いてみたいと思います。

行政書士はその報酬を源泉徴収されるのか

行政書士は、その業務の対価として報酬をいただくわけですが、このとき、当該報酬から所得税を「源泉徴収」されるのか否かについてです。

所得税法204条には、「源泉徴収」義務者について書いてあります。つまりこれは、行政書士の「お客様」に当たる方々ということになるわけですが、当該「お客様」に当たる方々は、所得税法204条1項2号により、下記のとおり弁護士、司法書士、税理士等に報酬等を支払った場合には、所得税をいわゆる「源泉徴収」しなければならないと規定されています。

そこで、下記の、所得税法204条1項2号をじっくり見てみると、あれれ、「行政書士」という明示は無く、最後部に「その他これらに類する者で政令で定めるもの」とあるのがわかります。

では、その政令つまり「所得税法施行令」を見てみると、あれれ、ここにもまた「行政書士」という明示がありません。

これはどういうことでしょうか?

これはつまり、「行政書士」は、その報酬から所得税を「源泉徴収」される法令根拠はない、つまり「お客様」は、「行政書士」からは所得税の「源泉徴収」をしなくともよいということになっているのです。

さてさて、これについては、行政書士業界でも様々な意見があります。「行政書士が納める所得税などない(あっても雀の涙ほどであって税務行政等に何ら影響を及ぼすようなものではない)し、だから相手にされていないということでそうなっているのか!けしからん!」という意見や「手取り分が減らず、良いことだ!きちんと確定申告すると思われているからかもしれないし、良いことじゃないの?」という意見やら、いろいろあります。真相をここで探るということは本稿の趣旨ではありませんので、このことについてはまた別の機会にでもと思っています。

【所得税法(抄)】
(源泉徴収義務)
第204条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一   原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
(以下略)

 

【所得税法施行令(抄)】
(報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収)
第320条 法第204条第1項第1号(源泉徴収義務)に規定する政令で定める報酬又は料金は、テープ若しくはワイヤーの吹込み、脚本、脚色、翻訳、通訳、校正、書籍の装てい、速記、版下(写真製版用写真原板の修整を含むものとし、写真植字を除くものとする。)若しくは雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金、技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料、技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導若しくは知識の教授の報酬若しくは料金又は金融商品取引法第28条第6項 (通則)に規定する投資助言業務に係る報酬若しくは料金とする。
2 法第204条第1項第2号に規定する政令で定める者は、計理士、会計士補、企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)、測量士補、建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)、不動産鑑定士補、火災損害鑑定人若しくは自動車等損害鑑定人(自動車又は建設機械に係る損害保険契約(保険業法第2条第4項(定義)に規定する損害保険会社若しくは同条第9項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第18項 に規定する少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいう。)又はこれに類する共済に係る契約の保険事故又は共済事故に関して損害額の算定又はその損害額の算定に係る調査を行うことを業とする者をいう。)又は技術士補(技術士又は技術士補以外の者で技術士の行う業務と同一の業務を行う者を含む。)とする。
(以下略)

行政書士はそのお客様に「マイナンバー」を提出するのか

さて、「行政書士」がその報酬から所得税を「源泉徴収」されることはない、つまり「お客様」は「行政書士」から所得税の「源泉徴収」の必要はないことがわかったと思います。

では、つぎに、「行政書士」はそのお客様に「マイナンバー」を提出するのか否かという点についてです。

そもそも「マイナンバー」は何のために提出するのかということにその答えがあります。

「お客様」は、前述のように税理士さんや司法書士さんなどに報酬を支払った場合、その報酬から所得税の源泉徴収をしなければならないわけです。そしてさらには、その源泉徴収などにつき記載した「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」という法定調書を、その支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに税務署長に提出しなければならないとされています。【所得税法225条】

このときに、つまり、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」という法定調書を作成するときに、当該士業等の「マイナンバー」をそこに記載しなければならないわけです。【所得税法施行規則84条1項1号】

ですから、「マイナンバー」はそのときに必要となるから、その法定調書の作成のために必要だから、士業等はその「お客様」に対して提出する必要がある、というわけなのです。

さて、ここまで書いてきたら、賢明なみなさまならもうおわかりのように、「行政書士」からはその「お客様」は源泉徴収の必要が無い、ということは、「行政書士」についての「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」という法定調書の作成も必要が無い、ということは、結局、その法定調書に記載するために必要なものである「マイナンバー」は、「行政書士」はその「お客様」に提出、提供する必要は無い、ということになるのです。

ちなみに、「行政書士」以外の、税理士さんや司法書士さんなどの士業に対する報酬の支払があり、源泉徴収をしたからには、そのすべてにおいて「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の税務署長への提出が義務なのかというとそうではなく、「同一人に対するその年中の報酬等の支払金額が5万円以下である場合」には提出の義務はありません。

なお、『士業の業務報酬』ということとは別に、「行政書士」が研修や講演などを行って講師料や講演料を支払った場合には、「講師料、講演料」ということで「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の税務署長への提出の義務が出てきます。ただし、これも「同一人に対するその年中の報酬等の支払金額が5万円以下である場合」には提出の義務はありません。

おわりに

以上のように、「行政書士」はその「お客様」(行政書士業務報酬を受領している「依頼者」ということ。)から「マイナンバー」の提出、提供の要請があっても、これに応じる必要が無いことはお話ししたとおりですが、もし、「お客様」から「マイナンバー」提出要請の電話なり文書なりが来た場合には、それを丁寧に、解りやすく説明をするということは大事なことです。

むしろ、「行政書士」のことをさらに深く理解してもらうため、さらには、マイナンバー制度コンンサルティングを入口とした個人情報保護関係コンサルティング業務の“きっかけ”にでもなれば、それはとても幸いなことではないでしょうか。

筆者:特定行政書士 四本平一(マイナンバー対応個人情報保護士、マイナンバー実務検定1級認定者)

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