一筆啓上/法改正・新制度についてなど

改正食品衛生法と社会福祉法【子ども食堂や認知症カフェに与える影響】

「食品衛生法」と「社会福祉法」。

同じ厚生労働省所管の法律ですが、関係が有りそうで、しかし直接にはあまり関係無そうなこの2つ。

しかし、今回はそんな2つの法律が、実はけっこう“絡んで”いる「あること」について書いてみようと思います。

食品衛生法の改正

食をとりまく環境変化や国際化等への対応、広域的な食中毒事案への対策強化、事業者による衛生管理の向上、実態等に応じた営業許可や届出制度の見直し等々の措置を講ずるため、平成30年(2018年)6月に、改正食品衛生法が公布されました。

施行は、広域的食中毒事案への対策許可のための連携に関する部分が平成31年(2019年)4月1日から、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関する部分が2020年から、そして営業許可や届出制度の見直しが2021年からとなっています。

なお、「HACCP(ハサップ)」とは、事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握したうえで、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法のことをいい、先進国を中心に義務化が進められているものです。

当該「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理の制度化は、すべての食品等事業者(製造・加工、調理、販売等)がその対象であり、小規模事業者であっても、「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理ほどの厳格さはないものの、その「HACCP(ハサップ)」の「考え方を取り入れた衛生管理」は求められる、つまりは、その程度のものは義務付けられるものとなっています。

その「HACCP(ハサップ)」の考え方を取り入れた衛生管理とは、端的に言えば、各業界団体が作成する「手引書」を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う、というものです。その「手引書」のある厚生労働省のページです。⇒(参考:「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」(小規模な一般飲食店:詳細版))

この「手引書」をもとに、小規模な一般飲食店も、衛生管理計画を作成し、それを実践し、その結果を毎日記録しなければならないということになったのが、当該改正食品衛生法(の一部)なのです。

社会福祉法における「地域における公益的な取組」

さて、一方、社会福祉法ですが、同法も平成28年に大改正、特に社会福祉法人制度についての大改正がありました。その社会福祉法第24条2項には、社会福祉法人の「責務」として「地域における公益的な取組」を実施することが明記されました。この「地域における公益的な取組」というのは、①社会福祉事業又は公益事業を行うに当たって提供される福祉サービスであり、②対象者が日常生活又は社会福祉上の支援を必要とする者であって、③無料又は低額な料金で提供されること、という3つの要件を満たすもののことをいいます。

これに、実は、「子ども食堂」や「認知症カフェ」の運営、実施が該当するのです。実際、当該「子ども食堂」や「認知症カフェ」を「地域における公益的な取組」として実施している社会福祉法人は全国に複数存在しています。なお、「子ども食堂」については、むしろNPO法人であるとか地域のボランティア団体であるとか、つまり社会福祉法人以外の団体が運営しているものが圧倒的に多いのですが、ここではその運営主体が云々ということが重要なのではなく、「子ども食堂」や「認知症カフェ」というもの自体が受ける影響の重要性について書いていますので、この点については悪しからずご了承いただければと存じます。

改正食品衛生法が与える「子ども食堂」や「認知症カフェ」に与える影響

ということで、ここで考えなければならないことは、前述の改正食品衛生法のところで出てきた「小規模な一般飲食店」には、当該「子ども食堂」や「認知症カフェ」も該当することになるものもある、ということです。ここで「(該当することに)なるものもある」と書いたのは、「(該当することに)なるものもあれば、ならないものある。」ということです。なお、食品衛生法上の「調理」、つまりは飲食店営業許可が必要となる行為とは、缶やペットボトルのジュースを自分以外の人がコップに注ぐ行為なども含まれますので、「認知症カフェ」もそれに十分に該当するところがあるというわけです。

つまり、同じ「子ども食堂」や「認知症カフェ」でも、「HACCAP(ハサップ)」の考え方を取り入れた衛生管理計画を作成し、それを実践して、そしてその結果を毎日記録しなければならない、しかもそこには保健所の指導があり・・・、というところと、それが必要でないところが出てくるということなのです。

これはどういうことなのでしょうか? なぜそのようなことになるのでしょうか?

それは、食品衛生法が適用されるか否かということなのです。食品衛生法では、(法律の条文及びそこに使われている用語の解釈が複雑、難解なのであえてここでは平たく書きますが⇒)「利益が出るような方法ではなく、材料費程度の実費を利用者から受け取っているようなものでも、連続して2日以上または1年に2回以上の頻度で、不特定の人々または多数の人々に対して食品を提供すること(調理行為を含む)を行っている場合」は飲食店営業許可が必要であるということになっています。また、飲食店営業許可を受けている事業者自ら「子ども食堂」や「認知症カフェ」を実施したり、その者に委託して当該「子ども食堂」や「認知症カフェ」を実施する場合も、飲食店営業許可が必要であるということになっています。
ちなみに、バザーや文化祭などの模擬店は、この飲食店営業許可ではなく、別の比較的簡易な「届出」でよいこととなっています。

このように、食品衛生法上の規制事項に、当該「子ども食堂」や「認知症カフェ」の一部が該当し、したがって、それらの主催者等は、先ほどの「HACCAP(ハサップ)」の考え方を取り入れた衛生管理計画を作成し、それを実践して、そしてその結果を毎日記録しなければならないことになるということなのです。

一方、これに該当しない「子ども食堂」や「認知症カフェ」も存在します。それはどのような理由で飲食店営業許可が必要でないのかというと、それらを利用する人々を名簿などで管理し、不特定ではなく「特定」の、そして「少数」の人々を対象とする、ということにしているというわけです。実は、多くの「子ども食堂」や「認知症カフェ」は、このように「飲食店営業許可」を取らなくても済むような方法をとっています。また、一部の自治体でも、先述のような飲食店営業許可が不要であるような対策(※利用する人々を名簿などで管理し、不特定ではなく「特定」の、そして「少数」の人々を対象とするというもの)をとっているところは、福祉目的の食事サービスは食品衛生法上の「営業」に当たらないとして、食品衛生法上の規制の適用外であるとしています。その代わり、自分たちで衛生管理をちゃんとやってくださいね、ということにしているのです。
また、厚生労働省も、「子ども食堂」については、各保健所において営業許可や届出などが不要とされた「子ども食堂」のために、チェックリストを提示して、それに沿って自己管理をするよう通知しています。

つまり、再度書きますが、同じように食事や飲料のサービスを行う「子ども食堂」や「認知症カフェ」であっても、今後は、食品衛生法の対象となり「HACCAP(ハサップ)」の考え方を取り入れた衛生管理計画を作成し、それを実践して、そしてその結果を毎日記録しなければならなくなるものと、食品衛生法の対象外でそのようなことをしないでも済むものという、違う対応の、2種類のものが存在することになるということが、最も大きな問題であると私は考えているのです。

まとめ

このように、食品衛生法と社会福祉法は、実は相当程度に関係しています。さらには、食品衛生法の改正により、社会福祉法上「公益的な取組」とされたものであるにもかかわらず、2種類の、法規制の対象となるものと対象とはならないものが存在するということにもなるのです。
そもそも、食品衛生法は、飲食による食中毒などの衛生上の危害の発生を防止し、それにより国民の健康の保護を図るというのがその目的です。そうであるならば、当該対象事業(者)が、「福祉目的」であろうがなかろうが、「営業」に該当しようがしまいが、その目的の下では等しく取扱われるべきです。食中毒などの健康被害はそれらを選んで発生するわけではないのですから。しかしながら、社会福祉法上「公益的な取組」とされたものが、そのような健康の保護という、まさに「福祉」を図ることを目的とした法律の対象外となることがあるということは大いに問題があります。

したがって、社会福祉法人による「地域における公益的取組」としてなされる「子ども食堂」や「認知症カフェ」については、否、それに限らず、すべての「子ども食堂」や「認知症カフェ」の実施、運営団体についても、一定程度、食品衛生法の適用対象とし、飲食店営業許可を受ける義務有りとまではしなくとも、少なくとも、「HACCAP(ハサップ)」の考え方を取り入れた衛生管理計画を作成し、それを実践して、そしてその結果を毎日記録するという義務を課すべきではないのか、と筆者は考えるのです。誰でも許認可や行政の指導や監督などという面倒くさいことは避けたいと思うでしょう。しかしそれでは本末顛倒ではないでしょうか。

もちろん、そのためのそれに携わる人々への啓蒙、教育、管理など、実施・運営団体の大変な負担となることは百も承知しています。しかしながら、そのような困難、煩雑さを乗り越えてこそ、「子ども食堂」や「認知症カフェ」を実施・運営する方々の、支援を必要としている子どもたちや高齢者の方々に対する「福祉」の提供という、心からの“思い”の実現がそこにあるのではないでしょうか。

(おわり)

 

 

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