一筆啓上/法改正・新制度についてなど

マイナンバー制度施行後に考えられる“混乱”

いよいよ、マイナンバー制度の施行(2015.10.5)まで約1か月となりました。

しかし、この制度。その周辺にある種々のことを併せて、ほとんど周知がなされていません。国会ではすでにこの法律の第一次と思われる改正法までが成立している今日この頃ですが、一般の国民の方々、いやそれだけでなく、この制度の対象となる外国人の方々にもまったくと言ってよいほど知られていないこの制度・・・。

このままだと、制度施行後には必ず大混乱が生じるでしょう。

ここでは、その制度施行後に考えられる、決して歓迎すべきではない、予想される“混乱”について書いてみたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 “混乱”その1:2015年10月~

2015年、つまり今年の10月中旬ごろから、つまりつまり、もう来月の中旬ごろから、住民票がある全ての世帯に「簡易書留」で「(個人番号)通知カード」が届きます。そのとき、受け取ったその世帯の誰かが「(個人番号)通知カード」が入っている封書の中身を理解しないまま、もしも捨ててしまったり失くしたりしてしまうと、もうこの制度は、そのスタートから大きくつまずいてしまうということになります。

「(個人番号)通知カード」が届くと、ほぼすべての人は何らかの対応をしなければなりません。サラリーマン世帯であれば、自分と扶養家族のマイナンバーを勤務先に伝えなければならないし、勤務先の企業だって、原則として社員から受け取ったマイナンバーが正しいものか否か、住所や氏名、生年月日などについて、写真付きの身元確認書類などとともに本人確認を行わなければならないのです。もちろん、制度対象の外国籍の社員やアルバイトの従業員からも同じことをしなければならないのです。

そして、ここが最も懸念されるところなのですが・・・その「(個人番号)通知カード」を捨てたり失くしてしまったりして、自分のマイナンバーを勤務先に伝えられない場合のことです。これは何も制度施行当初の話だけなのではなく、制度施行後いつの時点でも起こり得ることなのです。

「(個人番号)通知カード」をなくしてしまうと、それの再発行やマイナンバーが記載された住民票の写しなど、マイナンバーがわかる、その通知カードの代わりの書類などが必要となります。通知カードの再発行手続やマイナンバーが記載された住民票の写しの交付を受けるには、通常、自分が住んでいる(住民票がある)市区町村の窓口に出向いてからそこで身元確認書類などでの本人確認作業を求められ、そして通知カードの再発行手数料に500円もかかってしまうのです。いつでも結構混んでいる市区町村の窓口で、そのような作業・手続に手間と時間がかかることはもとより、その際の身元確認書類が、「これではダメです。」とか「もう一点必要です。」とかと言われて、平日の貴重な時間をこんなことに費やさなければならない理不尽さに思いっきり不満を抱く人たちも当然出てくるでしょう。そしてそれは、このマイナンバー制度自体への「反発」となることは火を見るよりも明らかですし、このような不満・反発が、国民に広がってしまうこともそう遠くないという気がします。

このような状況がもうすぐそこで始まるかもしれないのです! 果たしてこのような“混乱”は、心配には及ばない、小規模程度で済むのでしょうか・・・。

 “混乱”その2:2016年1月~

マイナンバー制度の施行は2015年10月からですが、その利用が始まるのは2016年、つまり来年の1月からです。この時点で、否、2015年12月中には、例えば正月の短期アルバイト(特に年賀状配達の郵便局のアルバイトさんとか)やパートの人は、勤務先にマイナンバーを申告しておかなければならないでしょう。当然、その人たちは、高校生であったり大学生であったり主婦であったりして、そのような人たちからも、その人たちを雇用している企業は、ちゃんとマイナンバーを伝えてもらう必要があり、そしてきちんとその人たちの本人確認をする必要があるわけです。

しかしながら、そのような人たちがいわゆる「短期」の雇用のために、いえいえ、この制度の周知不足のために、雇用していたところはその人たちが退職した後になって初めてマイナンバーと本人確認が必要だと分かって慌てるという事態も考えられます。それで結局、その人たちの源泉徴収票にマイナンバーを記載できないという企業が続出してしまうということも考えられるわけです。

またこれにとどまらず、企業は、個人のオーナーから不動産を借りている場合や、配当などでの税に関わる支払調書を作成している(非上場の)企業は、先ほどのような従業員からのみならず、そのような、個人オーナーや配当の支払相手からもマイナンバーを伝えてもらって管理しなければならないのです。そのために、その都度、「なぜあなたのマイナンバーを教えてもらわなければならないのか」について、つまりは、このマイナンバー制度についてのそのような人たちに対しての「説明」も必要となってくるというわけです。

なお、前出の通知カード紛失に関する“混乱”が最も起こりうる時期は、制度施行後に初めて迎えるいわゆる「年度末・年度初め」の時期、つまりは2016年2月から4月にかけてだと考えられます。新たな就職や異動などが増えるこの時期。もしかしたら、制度施行後すぐのときには通知カードを所持していたかもしれませんが、それから数か月経ってのその時期には通知カードを捨てたり失くしたりしてしまった人もいるかもしれません。そうなれば、前記のような、通知カードの再発行手続やマイナンバーが記載された住民票の写しなどの交付ための著しく煩雑な手続を経なければならず、しかもそれを余儀なくされる人たちが、この時期には大量に出現するかもしれないのです。

こうなれば、企業はもちろん、一番大変なのは市区町村の窓口でしょう。当然ながら、市区町村はこのような事態をある程度は想定しているとは思いますが、やはりそれが現実となったときの“混乱”ぶりは、それは相当のものになるものと思います。

“混乱”その3:その他(2015年10月~)

マイナンバー制度における「本人確認」の方法は、実は、関係省庁などが定める方法によるものとなっている。現時点(2015.9.3)では、国税庁が公表(ホームページ上でも確認できます。)しているものが、マイナンバーの記載が必要な書類の情報とともに詳細ですが、その他の省庁も国税庁と同じであるとしないと、かなり“混乱”するのは必至です。

なお、つぎのようなこともあります。

企業は、その従業員のマイナンバーを集めたり、保管したり、もちろんマイナンバーを書類に記載して行政機関に出さなければならない事務を、他者(例えば、税理士さんや社会保険労務士さん)に委託することができます。この「委託」をすれば、自分のところでマイナンバーなどが漏れないようにするためなどの面倒な「安全管理措置」をやらなくて済みます。委託先を「監督」する義務はありますが、自分のところで「安全管理措置」を施すよりも難しいまたは煩雑なことではありません。

これは、自分のところでマイナンバーを取り扱わないからできることなのですが、実は、ちょっと困ったことがあるのです。それは、市区町村から毎年6月に企業に送られる「住民税特別徴収税額決定通知書」です。そこにはマイナンバーが記載されるようです。そうなると、企業はマイナンバーを取り扱わざるを得ない状況となり、せっかくそのようなことをしなくても済むように他者に「委託」したはずなのに、「安全管理措置」をとらざるを得なくなり、これに対する何らかの対応が必要となってくるというわけです。

まとめ

新しい、しかもかなり大がかりな制度を導入しようとするときには、ましてや、情報漏えいについて完璧とも言えるような制度、機能設計としなければならないような重要な制度であれば、その開始時における一定程度の“混乱”は致し方ないものと私も思っています。

しかしながら、冒頭でも書いたように、あまりにも周知不足であり、国民等にとっては、その制度の概要はおろか、制度導入後におけることなど想定できるものではありません。

このような制度導入後において想定される“混乱”について、政府はもう少し危機感と使命感をもってやってほしいと思います。また、国のみならず、現場となる各市区町村も、上記のような“混乱”に対応できる体制を、できているのであれば、その“混乱”を少しでもなくすための周知、広報活動を行ってほしいと思うのです。

もちろん、行政書士も、国民等の方々の“混乱”をすこしでも避けるためのお手伝いを、情報と知識を総動員して行っていきたいと思っています。そのためにも、少なくとも私は、このマイナンバー制度の周知を、制度導入後においても随時行っていきたいと思います。 (おわり)

 

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