一筆啓上/法改正・新制度についてなど

【要検証】その許認可、きちんと“審査基準”は定められていますか?

許認可等が下りるかどうかは事業者(申請者)にとって最大の関心事

個人事業主や法人企業が何某かの事業を行うにあたって、法律上そのための「許認可等」を必ず受けていなければならないからという理由やいわゆる“お上(かみ)”からの“お墨付き”が欲しいからなどの理由により、事業者から役所に対してなされるのが「許認可等」の申請です。

我々行政書士は、この「許認可等」を受けるための申請手続きを事業者に代わって行います。

さて、この「許認可等」ですが、申請をしようと思っているけれども果たしてどのような場合にそれを受けることができるのかということは事業者にとって最も知りたいところです。そのような場合、その「許認可等」の要件を定めている法令の定めを読めばおおよそのことはわかりますが、概して、その法令の定めは抽象的であったり、またある程度具体的に定められているようなものでも、そこに用いられている語の定義が曖昧だったりして、結局は、その法令の定めだけでは、申請をする事業者にとって、「許認可等」が受けられるのか否かの予見が得られる可能性は決して高くはありません。

許認可等をするかどうかを法令の定めに従って行政が判断するために必要な基準が「審査基準」

事業者にとって、申請をしてその「許認可等」が受けられるのか否かの予見が得られるということはとても重要なことではありますが、それと同時に、一般の国民ではなかなか知り得ない「許認可等」における行政内部の判断過程がわかるということにも大きな意義があります。

そのために、行政にそれを定めるよう法律で義務付けられているのが「審査基準」です。(行政手続法第5条1項)「審査基準」とは、「許認可等をするかどうかを法令の定めに従って行政が判断するために必要な基準」(行政手続法第2条8号ロ)とされています。また、行政手続法第5条2項には「行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」とあり、当該「法令の定め」“のみ”によって許認可等をするかどうかを行政が判断できる場合には、その判断の基準が「法令の定め」に尽くされているので、別途「審査基準」を定めなくてもよいものとされています。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

つまりは、「法令の定め」=「審査基準」といえるのかどうかは、本当にその「法令の定め」“のみ”によって許認可等をするかどうかを判断することができるのかということが十分に吟味されなければならないということです。「法令の定め」“のみ”によって判断できる場合とは、当該「法令の定め」に、そこに用いられている語の定義や許認可等の基準を満たしているものと判断する場合の「みなし事項」や「例外事項」の規定、許認可等の基準を満たしているか否かを判断するのに必要な書面等の例示など、かなりの具体的なものが書かれている場合をいいます。

なお、「法令」とは、法律、政令、省令、法律に基づいた命令である告示、条例、規則をいいますが、実は、法令の規定それ自体は「審査基準」には含まれません。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)なぜなら、「審査基準」とは「法令の定め」に従って判断するための基準であって「法令の定め」そのものではないからです。これは、言い換えれば「法令の規定をそのまま審査基準として設定するということはできない」という意味になります。しかし、残念ながら現実には、法令の規定そのものを「審査基準」としている(設定している)ものが存在しています。

「自治事務」・「法定受託事務」と「審査基準」

さて、「審査基準」が行政手続法により行政にその設定が義務付けられていること、ただし、「法令(法律、政令、省令、法律に基づいた命令である告示、条例、規則)の定め」“のみ”によって許認可等をするかどうかの判断の基準が尽くされている場合には「審査基準」は設定しなくともよいこととなっているがそれが本当にそうなのかは十分な吟味が必要であるということは述べましたが、では、つぎに、その「審査基準」はどのように設定しなければならないのかということについて述べてゆきたいと思います。

「審査基準」の形式は、(法律に基づいた命令ではない)告示、通達、訓令その他これを定める形式を問いません。また、「審査基準」は、あくまでも行政庁(国・自治体等)が「自ら」定めなければならないものとされています。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

しかしながら、例えば、国の本省(上級行政庁)が当該「許認可等」の運用について、「通達」の形で地方出先機関(下級行政庁)に対して発出している場合、当該地方出先機関(下級行政庁)がその「通達」をそのまま借用して「審査基準」として設定しているということがありますが、この場合は、当該「通達」を当該地方出先機関(下級行政庁)が「それを審査基準とする」という決定行為があれば、当該地方出先機関(下級行政庁)は、「審査基準」を「自ら定めた」ということになります。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

では、各都道府県知事が「許認可等」の処分権者となっている「自治事務」についてはどうなのでしょうか?

各都道府県の「自治事務」については、上級行政庁は存在しません(※「自治事務」の場合、国は都道府県の上級行政庁ではありません。)ので、前掲のような上級行政庁(国)からの「通達」をそのまま借用してそれを都道府県が「審査基準」として設定するということはできません。

つまり、「自治事務」の場合は、必ず「自ら」「審査基準」を設定しなければならないというわけです。

なお、「自治事務」の場合であっても、国から各都道府県(知事)に対して、「技術的助言」という通知(地方自治法第245条の4第1項)の発出があり、それが当該「許認可等」の運用、事務取扱いについてのものである場合には、当該通知を都道府県(知事)における当該「許認可等」の「審査基準」とすることができますが、この場合であっても、前掲のように、「その通知を審査基準とする」という決定行為がなければなりません。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

ちなみに、その「技術的助言」についてですが、それを国が発出する場合は、その文書の冒頭部分等に必ず「なお、この通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言であることを申し添える。」という文言が入っています。したがって、当該文言の有無により、その通知が「技術的助言」なのか否かを判断することができるというわけです。

つぎに、「法定受託事務」についてはどうなのでしょうか?

「法定受託事務」というのは、国が本来果たすべき役割に係る事務ですが、これを法律またはそれに基づく政令において都道府県や市町村に委託することを特に定めた事務のことをいいます。この「法定受託事務」の場合は、上級行政庁が存在します。例えば、産業廃棄物処理業許可の場合、都道府県知事許可を出す場合の都道府県知事が下級行政庁で環境大臣(環境省)が上級行政庁ということになります。

したがって「法定受託事務」の場合、前掲のように、上級行政庁(国)からの「通達」をそのまま借用して、それを都道府県が「審査基準とする」という決定をすれば、当該「通達」を「自ら」「審査基準」として設定するということが可能となるわけです。

また、「法定受託事務」の場合、地方自治法第245条の9第1項に規定がある、国が当該「許認可等」に係る基準である「法定受託事務に係る処理基準」を発出したときも、前述の決定行為を経て、それをそのまま当該「許認可等」の「審査基準」とすることができます。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

そして、前掲の「技術的助言」という通知(地方自治法第245条の4第1項)の発出があり、それが当該「許認可等」の運用、事務取扱いについてのものである場合も、「自治事務」と同様の手続きを踏めば、当該「許認可等」の「審査基準」とすることができます。(参照:「逐条解説 行政手続法 27年改訂版 」ぎょうせい)

ということで、特に重要なことは、「自治事務」の場合、必ず「自ら」「審査基準」を設定しなければならないということです。国の通達をそのまま「審査基準」であるとして、また国からの「技術的助言」がある場合それを審査基準とするという決定行為もしないでそのまま「審査基準」として当該「許認可等」の審査事務を行うなどということは、実は、行政手続法(第5条1項-審査基準の設定の義務-)違反となるのです。

建設業許可と「審査基準」

ではここで、具体的な、ある「許認可等」について検証していきたいと思います。

それは「建設業許可」です。この許可は、建設業法により定められたもので、建設業者の営業所が複数の都道府県にまたがっている場合には国土交通大臣の、一つの都道府県の区域内のみに当該営業所が存在(複数である場合も含む。)する場合にはその都道府県知事の許可を受けるというもので、当該許可の基準(要件)(※「審査基準」ではありません。)は、同法第7条と第8条などに規定されています。

では、当該許可の「審査基準」はどのようになっているのかといえば、国土交通大臣許可の場合、「国土交通大臣に係る建設業許可の基準及び標準処理期間について」(平成13年4月3日国総建第99号 総合政策局建設業課長から地方整備局建政部長等あて)というもの、そして「建設業許可事務ガイドラインについて」(平成13年4月3日国総建第99号 総合政策局建設業課長から地方整備局建政部長等あて)というものがあります。

それでは、各都道府県知事許可の場合はどうなっているのでしょうか?

恐縮ながら、筆者が知る限りでは、北海道(「建設業法に基づく許可事務に関する要綱」)、大阪府(「大阪府知事が建設業の許可を行う際の審査基準」)と岐阜県(「岐阜県知事許可に係る建設業許可の基準及び標準処理期間について」)がそれを設定しています。(※ほかにもご存知の方はぜひご教示をお願いします。)

なお、「許可(申請)の手引き」という許可の申請書等の記載例や申請に必要な添付書類などその他許可申請に必要な事項が書かれたものは各都道府県に存在しますが、これらが、これまでに述べたような、その自治体が「自ら」設定した「審査基準」といえるのか否かについては、前掲の3つの自治体が設定している「審査基準」に比較してみれば、甚だ疑問であること、否、正式な手続きを経た「審査基準」ではないものと筆者は考えています。

その理由ですが、まず、都道府県知事の行う「建設業許可」事務は「自治事務」です。つまり、前述のように、その場合は、必ず「自ら」「審査基準」を設定しなければならないということです。

しかしながら、ほぼすべての都道府県に存在する当該「建設業許可(申請)の手引き」は、果たして「決定行為」手続きを経て存在しているのか甚だ疑問だからです。国の定めた、国土交通大臣許可に係る基準やガイドラインを、そのまま適用、使用して当該「手引き」を作成、公表し、それをあたかも当該都道府県における建設業許可の「審査基準」のように示して、それにより許可の審査事務を行っているというのが実際のところではないでしょうか?

その国土交通大臣許可用の基準やガイドラインの内容そのままではなく、そこに当該都道府県独自の法解釈や添付書類、取扱い方などを付加して、それを作成、変更したりするときも、何らの決定行為を実施せずに、それら「許可(申請)の手引き」の作成、内容の変更がなされているのではないでしょうか?

これらことを総合すれば、明白に、行政庁がそれを定めることを法律(行政手続法第5条1項)によって義務付けられている「審査基準」を、「自ら」設定していない、つまりは、違法であるということになるものと筆者は考えますが、いかがでしょうか?

ちなみに、この「審査基準」を設定せずに、つまりは、「審査基準」が定められていないにもかかわらず「許認可等」の行政処分を行った場合、それは取消しを免れないという判決(那覇地裁判決 平成20年3月11日「港湾施設使用不許可処分取消請求事件」)も存在します。

「審査基準」が定められているのかいないのかを検証することの重要性

「許認可等」において、その「審査基準」を行政が「自ら」定めているのか、そしてそれは行政手続条例上の意見公募手続を経て定められているのか、などということを検証することはとても重要なことであると筆者は考えています。なぜなら、それがそのように定められていない場合、当該「許認可等」がもし行政の恣意的な判断によってなされたものであるとしても、その判断過程は不透明であり、かつ、国民の当該「許認可等」が受けられるのか否かの予見可能性がほとんどないという、国民にとって極めて不利益なことになるからです。

行政手続法は、そのような不合理(“不条理”でもあるでしょうか?)な行政の手続きをさせないためにも、国民にとってこれで完全というわけにはいきませんが、平成6年10月に初めて施行されました。その後数次の改正を経て、現行のものに至っています。

 

最後に改めて・・・

その許認可、きちんと「審査基準」は定められていますか?

 

 

 

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