行政書士とほかの士業(税理士・司法書士・社会保険労務士など)との「兼業」はよくあることなのですが、最近は特にサラリーマンとの「兼業」の行政書士(行政書士との「兼業」のサラリーマンとも言えますが・・・。)が多数存在します。
ここでは、そんな行政書士とサラリーマンとの「兼業」が、実は、問題があるということについて書いてみたいと思います。
行政書士登録=開業=業務遂行義務の発生
行政書士法上、日本行政書士会連合会に登録をすれば「行政書士」となります。
さて、晴れて行政書士となったからには、様々な「義務」が発生します。
そのひとつが、行政書士法11条の「依頼に応ずる義務」です。これは、国民等から行政書士業務の依頼があれば、正当な事由がなければそれを拒否することができないというものです。この場合の「正当な事由」とは、病気や事故で業務ができないとか、作ってもらう書類を依頼者が犯罪などの不法なことに使おうとしている意図が明らかであるとか、依頼された仕事が行政書士の業務範囲を超えるもので弁護士さんや司法書士さん、あるいは税理士さんの仕事の範囲であるときとか、そのような場合を指します。
したがって、「この人、なんか感じ悪いから。」とか「この人、怖そうだから。」とか「この人、金払いが悪そうだから。」とかいうことは、その「正当な事由」には当たりません。
つまり、行政書士として登録するということは、国民等の依頼に応えて業務を行う行政書士という自営業を開始する、つまり「開業」するということであり、そして一度「開業」したならば、先ほどのような「正当な事由」のない限りは、国民等の様々な依頼に応じて業務を行わなければならない義務を負うことになるということなのです。
なお、この「依頼に応ずる義務」は「時」も問いません。つまり、“いつでも”依頼に応じなければ、応じる用意がなければならないのです。もちろん、就寝時間とか休日などの常識的、一般的に業務を行わない時や緊急時などで物理的に不可能な場合は除かれますが、「会社に行っている時間は物理的にムリだから」などというものは「正当な事由」とはならないことは言うまでもありません。
行政書士登録=“副業”
そうなると、行政書士登録は、それだけで立派な“副業”です。
つまり、「登録」だけしていて「仕事はしない」ということはできないということになるのです。
そうであるからこそ、登録の際には、必ず、業務を行うための事務所を設置しなければなりませんし、業務を依頼しようとする国民等が行政書士の事務所であることがわかるために、事務所には行政書士の事務所であることを示す「表札」の掲示義務が定められているのです。
さて、ここで、「じゃあ、無報酬で仕事をすればいいんじゃないの? 依頼を拒否せずにちゃんと受けて仕事をすれば行政書士法違反にはならないし、それが無報酬であれば収入はないので、ボランティアであって“副業”には当たらない。この方法であればセーフなんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかしながら、そううまくは行きません。行政書士という事業者でありながら事業活動の対価としての報酬を受けない・・・これは、独占禁止法上の「不当廉売」に該当するおそれがあるからです。
「不当廉売」の定義では、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」としています。行政書士でありながら、継続して無報酬で行政書士業務を行う。この行為はまさに「不当廉売」そのものではないでしょうか。
したがって、やはり、行政書士であれば、つまり行政書士登録をした以上は、有償(報酬を受け)にて依頼に応ずる義務があり、つまりは行政書士登録は“副業”であると結論されるわけです。
“副業”は許されるのか
会社側からみた場合
さて、会社側からみた場合、社員は“副業”してもよいのでしょうか。
これはやはりその会社の就業規則にどのように規定しているかによるでしょう。そこに“副業”禁止の規定があれば、その社員は就業規則違反ということになり、懲戒処分の対象となる可能性があります。
行政書士側から見た場合
では、行政書士側からみればどうでしょうか。
現行の行政書士法には“副業”を禁止する規定はありません。したがって、現在、サラリーマンとの兼業でも登録は認められています。
しかしながら、司法書士業界では、会社員との兼業は事実上認められていません。法務省も同様の見解を出しています。
その理由は、先ほどの「依頼に応ずる義務」と「守秘義務」です。会社員と兼業している場合、少なくとも平日の昼間は会社に行って就業しているわけですから、事務所にはおらず、したがって「依頼に応ずる義務」を果たせないということ、また「守秘義務」についても、会社員として勤務している状況において、司法書士業務上の秘密が漏れる(漏らす)可能性があるから、ということにあるようです。
“サラリーマン兼行政書士”の方々へ(ご注意を!)
まとめになりますが、行政書士法上は“副業”について禁止する規定も運用もありませんので、現在サラリーマンであっても行政書士登録は認められています。
問題は、会社です。会社の人事担当などの方々が行政書士法をどの程度ご存じなのか、ということです。
行政書士登録は、単に行政書士と名乗れるだけのものに過ぎないものと誤解されているのではないでしょうか。だからこそ行政書士登録をしてもよいという許可を社員に出したのではないのでしょうか。
このコラムをお読みいただいている会社の人事担当などの方々もいらっしゃるでしょう。貴社の“サラリーマン兼行政書士”の方々は大丈夫でしょうか?
最後になりましたが、“サラリーマン兼行政書士”の方々、貴社の就業規則では“副業”は可能ですか? 禁止されていませんか?
ブログ読ませていただきました。
私見としましては、無理やり兼業である
理由をこじつけているように感じます。
私は以下のような形でサラリーマン行政書士として
会社に内密に活動しています。
応諾義務についてあなたは少しはき違えているように感じます。
行政書士の業務が忙しく、応諾できないのは正当な理由なのか。
行政書士と兼業している(例えば不動産業など)場合で、
不動産業が忙しく、応諾できない場合は正当な理由に当たらないのか。
誰もが行政書士一本でやっているわけではありません。
私だったら、会社に行政書士登録がばれても、堂々と
「会社で副業が禁止されているので、依頼は受けていません」
と言いますけどね。
だってこの2つだって正当な理由でしょ。
ご投稿ありがとうございます。
ご意見が多様にあることは承知いたしております。
その中で私の考え、貴殿のお考え、その他にもここにご投稿された方々のご意見、様々あるものと思います。
なお、私は公的な解釈をする権限がある者では当然ございませんし、一国民、一行政書士としての意見でしかございませんこと改めてご理解をお願い申し上げる次第です。
文末にて恐縮ながら、多数あるHPの中からここを見つけていただき、そしてご投稿までしていただいたことに感謝申し上げます。
先生の行政書士への思いが、此方まで十分伝わる文章でした。
その上で一点疑問がございます。
副業に関しては、営業時間を土日のみにすれば問題ないと考えます。
それとも行政書士の応答義務、医師法に規程のある受診義務と同等のものなのでしょうか。
そもそもなぜ士業には「依頼応諾義務」があるのでしょうか?
それは、士業がその業務を行うにあたり、法により「独占」が許されているからです。
つまり、士業の業務は「誰でもできる」ということではなく、士業(資格の保有と登録)しかできないという特別な制度になっているからです。
そのような、業務を「独占」できる立場(制度)にあるのであれば、国民等からの依頼を拒否するなどということは許されない、というわけです。
なお、これはもちろん、医師においても同様です。
ただし、弁護士や認定司法書士が扱う訴訟業務(訴訟行為)に限っては、依頼者との信頼関係が重要視されることからこの「依頼応諾義務」はありません。
「副業」に関しては、拙稿でも書いてあるように、現在、行政書士においてそれを禁止するものはどこにもありません。したがって、「土日書士」さんも多くいらっしゃいます。
「副業」と「依頼応諾義務」というものは直ちに関係するというものではありませんが、しかし、全くの無関係であるとも言い切れないのではないか、このことが私の拙稿でお伝えしたかったことです。
ネットで少し調べ物をしていたところ、貴事務所のHPがヒットし、本ページを拝見させていただきました。
私は社会保険労務士なのですが、少々気になった記載がございましたので、不躾ながら書きこむことといたしました。ご容赦ください。
1.兼業禁止について
原則として、雇用契約において兼業禁止は認められておりません。
したがいまして、就業規則に兼業禁止が規定されていても、争いとなれば無効となるケースが多くなると思われます。
なお、例外(禁止してもよい具体例)は、ネット検索すると出てきます。
理由ですが、労働時間の定義が『使用者が指揮命令してもいい時間』であるからです。
したがって、逆にいうと「労働時間でなければ使用者は指揮命令できない」こととなります。
なお、指揮命令とは、「~をしなさい」ということだけではなく、「~をするな」ということも含まれます。
例えば、昼休みなのに「電話が何時かかってきても対応できるように昼ご飯は事務所で食べてください」というケースについては、労働時間(待機時間)とみなされ賃金が発生します。
要約すると以下のとおりです。
a.労働時間外は指揮命令ができない
b.指揮命令できる時間なのであれば、それは労働時間となる
2.受任義務について
士業における受任義務は、行政書士だけでなく、おそらく「紛争当事者の代理」に係る業務以外は全てそうなっていると思われます。
私は行政書士ではありません(合格しておりますが未登録です)が、貴事務所の行政書士法についてのご見解は少々厳しすぎるのではないかと思われます。
特に、「会社に行っている時間は物理的にムリだから」という理由が「正当な事由」となる余地が無いというご見解に引っ掛かりました。
なお、無料で業務を行うことが不当廉売に当たるのではないかというご見解につきましては異論はございません。
確かに看板をあげているのであれば、全く依頼を受注できないということは許されないでしょう。
しかしながら、メール等で依頼を受け付け、別の仕事の合間に役所に赴き届出を行う等、可能な範囲で業務を行うことができれば、問題無いのではないかと私は考えます。
私は実際に、別の仕事も並行して行っている(いた)行政書士を数十人は存じ上げております。
士業の業務を軌道に乗せるのは、ご承知のとおり簡単なことではありませんが、貴事務所のご見解ですと、軌道に乗るまでの間について、生活の糧を得るために別の仕事をすることもできなくなってしまいます。
常識的に考えますと、行政書士法において、憲法の「生存権」を否定するような規定を設けることは無いと思います。
ただ、これは私の私見ですので、行政書士会に確認されるのがよいのではないかと思います。
以上、長々と失礼いたしました。
なお、名乗らないのも失礼かと思い、事務所名とメールアドレスを記入いたしましたが、お忙しいかと思いますので私への返信は不要です。
貴事務所の益々のご活躍を祈念いたしております。
星の数ほどあるサイトの中で、当方サイトを、そして拙稿をご高覧戴きましたことまずは心より御礼を申し上げます。
また、さらにコメントもいただきましたこと、重ねて御礼を申し上げます。
さて、返信はご不要とのことでしたが、せっかく戴きましたコメントを黙殺することは貴殿に大変失礼かと思いますので、以下に返信として私の意見を述べさせていただきます。
まず、「兼業禁止について」に対してですが、私ごとき者でも、貴殿仰るように、企業で定める労働時間「外」の「兼業」(副業)が禁止されているものでないことは十分に承知しています。
しかしながら、私が述べているのは、行政書士を「登録するということ」は、労働時間「内」に「行政書士業務を行わなければならないものとなる」ということです。
そうであるからこそ、行政書士「登録」は、それだけで「副業」(兼業)となる、と言っているのです。
実は、行政書士法の、現在のような「登録即入会」制度は、昭和58年改正法からのものです。つまり、それ以前(正確には昭和35年改正法施行以後昭和58年改正法施行まで)は、「登録」していても各都道府県行政書士会に入会していない行政書士は業務ができないこととなっていました。これであれば、当該入会していない行政書士、つまり「登録」だけしていて、行政書士業務を行わない(正確には「行うことができない」ですが)行政書士が存在することは可能であり、その者が同時に企業等に勤務することは何ら問題がなかったわけです。
しかしながら、現在では、「登録」=「入会」=「開業」=「受任義務の発生」ということになっているというわけです。
つまり、「登録」をすれば直ちに「受任義務が発生」し、それは当然、当該企業で定める労働時間「内」にも及び、したがって、行政書士「登録」は「副業」(兼業)となる、ということです。
なお、そこで重要な意味を持ってくる「受任義務について」ですが、これは以下に改めて述べるものとします。
さて、「受任義務について」に対してですが、貴殿仰るとおり、弁護士は、弁護士法29条の趣旨により、同法24条の場合を除いて依頼の不承諾(拒否)ができますし、他方、司法書士は、司法書士法第21条により、簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除いて、「正当な事由」がある場合を除いて受任義務があります。
そこでこの「正当な事由」ですが、行政書士としてその例として挙げられているのは、「病気、事故等行政書士が業務を行い得ない場合」、「依頼人がその書類を犯罪等の方法な用途に供しようとしている意図が明白な場合」、「行政書士法の範囲を超えて他士業の業務の依頼である場合」、「依頼事件が多く、依頼人が希望する日時までに業務を完了することができない場合」などです。(「詳解行政書士法 第4次改訂版」136p)
当然ながら、これらはすべて、依頼を受ける「行政書士のため」の「事由」ではなく、そのような事情を持つ行政書士に依頼した場合の「依頼者である国民等を守るため」、あるいは「反社会的行為を防ぐため」のものです。
さて、ここで「会社に行っている時間は物理的にムリだから」という事由が「正当」なのか、ということについてなのですが、実は、「規制改革会議」に対する「会社員を続けながら司法書士登録をし司法書士業を兼業したい」という方からの要望に対して、法務省は、「司法書士と会社員との兼業を認めた場合、当該司法書士は会社での勤務中は依頼に応ずることができず、依頼に応ずる義務(司法書士法第21条)が遵守されなくなるおそれがあるなどの事情があるようなケースでは、司法書士と会社員の兼業を認めることが適切ではないものと考える」旨の回答をしています。(※規制改革会議「全国規模の規制改革要望に対する各省庁からの再回答について(平成19年8月15日)」における法務省再回答より)http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/accept/200706/0815/0815_1_09.xls司法書士法第21条の趣旨は、行政書士法第11条(依頼に応ずる義務)の趣旨と、簡裁代理等業務関係に関するもの以外は同じですので、つまりは、結局「会社に行っている時間は物理的にムリだから」という「事由」は、いわゆる「受任拒否」の際の「正当な事由」には当たらないものと考えるわけです。
なお、私は、当該「兼業」について、行政書士法上は、先例も含めて、それが何ら違反しているものではないことは記事でも申し上げています。
つまり、私は、行政書士と会社員との「兼業」は、それ自体は明文として直ちに違法となっているものではないが、しかし、当該会社員として会社に勤務しているということが行政書士法上の「受任義務」違反になるのではないかということ、そして、当該「受任義務」は、行政書士「登録」の時点から発生し、それは当該行政書士が「兼業」している会社員としての労働時間内でも該当するので、結局、行政書士「登録」自体が「副業」(兼業)となるもの、ということを言っているのです。
最後に、ご承知のように、行政書士法はその目的規定を読めばお解りのように、行政書士の「生活の糧のため」に存在するものではなく、官公署及び国民等のために存在する法律です。
なお、貴殿仰る「(私の見解だと)軌道に乗るまでの間について、生活の糧を得るために別の仕事をすることもできなくなってしまう」というのは、明白に誤解です。
なぜなら、行政書士(事務所)の休日あるいは執務時間外に、バイト等をすることが問題があるなどと私は一言も申し上げておりませんので。もちろん、現実にそのような方々は、これまたおおぜいいらっしゃることも、26年間この仕事をやってきて、そのほとんどの期間、所属行政書士会や日本行政書士会連合会の役員を経験して、当然存じていますことを付記いたします。