「マイナンバー」を記載しなくても書類は受理してくれるし罰則もなし!?
昨年10月のマイナンバー制度施行後まもなく、「中小零細事業者にとって、最善の『マイナンバー』対策は、何もしないことである。」との意見がネット上を駆け巡りました。
これは、某団体が、昨年の10月末に行った省庁との交渉において、マイナンバー(共通番号)制度実施の延期・中止を求めるとともに 「共通番号の記載がなくても提出書類を受け取り、不利益を与えないこと」などを要望し、それに省庁が下記のような回答をした、との記事が出たことによるものが大きいものと思われます。以下、当該各省庁の「回答」として当該記事に掲載されていたものを紹介しますと・・・
【内閣府】
「個人番号カード」の取得は申請によるもので強制ではない。カードを取得しないことで不利益はない。 「扶養控除等申告書」「源泉徴収票」などの法定資料や雇用保険、健康保険、厚生年金保険など書類に番号が記載されていなくても書類は受け取る。記載されていないことで従業員、事業者にも不利益はない。 従業員から番号の提出を拒否されたときは、その経過を記録する。しかし、記録がないことによる罰則はない。 |
【国税庁】
確定申告書などに番号未記載でも受理し、罰則・不利益はない。 事業者が従業員などの番号を扱わないことに対して国税上の罰則や不利益はない。 窓口で番号通知・本人確認ができなくても申告書は受理する。 これらのことは個人でも法人でも同じ。 |
【厚生労働省】
労働保険に関して共通番号の提示が拒否され、雇用保険取得の届け出で番号の記載がない場合でも、事務組合の過度な負担が生じないよう、ハローワークは届け出を従来通り受理する。罰則や不利益はない。 労働保険事務組合が番号を扱わないことによる罰則や不利益な扱いはない。 番号を記載した書類を提出するとき、提出者本人の番号が確認できない場合でも書類は受理する。 |
【全国商工新聞(2015年11月9日付)】より
「受理」はするし、「罰則」はないけど・・・
これについては、「罰則」がないという部分、「番号記載がなくても受理する」という部分は、番号法上からも省庁が発出しているFAQからも確かに正しいのですが、しかし「不利益な扱いはしない」という部分の意味に私が個人的に疑義を持ったこと及びもしこのまま番号記載のない書類を何の処置もなく受理するだけであるとするならば、マイナンバー制度導入の根底が崩れてしまうのではないかとの思いもありましたので、国税庁に対しその旨質問をしてみました。以下、それに対する国税庁の回答です。(※質問は国税庁のホームページ上の意見要望提出ページから行い、回答は私のアドレス宛にメールで寄せられたものです。また、太字・下線は私が施しました。なお、通常はこのような個別回答はしないものと思われます。ラッキーでした。)
国税庁ホームページにご意見等をお寄せいただき、ありがとうございました。
11月17日にご照会いただいた件につきまして、以下のとおり回答いたします。 当庁においては、国税分野におけるマイナンバーの取扱いについての回答となりますがご了承願います。 御質問にいただいている内閣府回答の「不利益はない」について、国税分野においては「①記載のないことをもって、税務署に受理されないということはない、②記載しなかった場合の罰則規定はない、③税務署の窓口で従業員等から直接個人番号の提供を受けることはない」などが考えられますが、「不利益はない」の詳細な意図については内閣府にご照会願います。 記載しないことをもって税務署に受理されないことや記載しなかった場合の罰則規定はありませんが、マイナンバーの記載は法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、事業者及び従業員は正確に記載した上で提出する必要があります。 (国税庁HP掲載社会保障・税番号制度<マイナンバー> FAQ内「番号制度概要に関するFAQ」2-3-3参照) このため、国税庁においては、税務署窓口において、個人番号の記載がない場合には、記載指導を行うなどの対応を予定しています。 国税庁ホームページにアクセスいただきありがとうございました。 国税庁 広報広聴官 HP管理者 |
“何もしないこと”ではすまない
つまり、この回答により、事業者が従業員のマイナンバーを収集しないで記載のない書類を税務署に提出したら税務署から「(個人番号の)記載指導」を受ける、ということが明らかになったものであり、冒頭の「中小零細事業者にとって、最善の『マイナンバー』対策は、何もしないことである。」との結論には決してならないということになるのではないのでしょうか。そう、“何もしないこと”ではすまなくなるのではないか、ということです。
国税関係法律上の「違反」の事実により、マイナンバーの記載がない書類を提出した事業者は、おそらく、しつこく税務署から「記載指導」を受け、さらには、個人情報保護委員会から番号法37条(※旧法51条)に基づく勧告や命令を受ける可能性もゼロではないのではないでしょうか。
さらに、某IT関係のネット上の記事には、マイナンバー制度を担当する内閣官房の内閣審議官の方が、写真入りでインタビューに「企業が国税の手続きに必要な体制を取らず何もしないのは、番号法と税法違反ということで、国税庁から指摘される可能性はある。」と応じられていました。
結局、「マイナンバー対応の最善策は“何もしないこと”」ということにはならず、やはり、法令を遵守し、しかし、高額な負担などなしで賢く対応策を実施するということが「最善策」となるのではないでしょうか。
「マイナンバー制度対応」はそんなに大変なことではありません
今やあらゆるところでマイナンバー対応は大変だ、面倒くさい、お金も手間もかかる、だからクラウドを利用して、いや、委託だ・・・などとかなり騒がしいことになっています。
しかし、実は、事業者での「マイナンバー制度対応」はそんなに大変なことではありません。特に小規模零細事業者にとってはそうです。
以下のとおりのレベルの「安全管理措置」を行えば十分です。
「組織的」・・・
① マイナンバー取扱事務担当者を決めておく。
② マイナンバーの取扱記録を付ける。
③ 漏えい時の連絡報告体制をとっておく。
「人的」 ・・・
① 代表者が担当者を監督する。
② 担当者にセミナー等を受講させる。
③ 従業員に個人情報の秘密保持に関する「誓約書」を提出させる。
「物理的」・・・
① 担当者の席を固定し、他の従業員は近づけないようにする。
② マイナンバー記載情報は紙媒体とし、鍵のかかる机の引き出し、ロッカー等に保管しておき、要記載書類に記載するときのみ出して記載する。
③ パソコンで管理する場合は、ノートパソコンでネット接続はしないで、使用するとき以外は鍵のかかるロッカー等にしまっておく。
④ マイナンバー記載書類廃棄の方法は、細断できるシュレッダーを使用し、廃棄を委託した場合は、委託先から「廃棄証明書」を取得するようにする。
「技術的」・・・
① 取扱事務者以外はロッカー等の鍵を持たせず、パソコン使用の場合はパスワードを設定して取扱者以外のアクセス制御をする。
② パソコン使用の場合は市販のウィルス対策用ソフト等を導入する。
③ 外部移送の場合はなるべく電子的送信を避け、やむを得ず電子的送信を使用する場合は、暗号化ソフトでファイルを暗号化しパスワードを設定するなどの措置を取って送信するようにする。
あとは、保険に入るということでしょうか。
まとめ
何が事業者にとって一番の脅威か・・・。
それは、マイナンバー(を含む特定個人情報)が外部に漏れることでしょう。
そうならないためにも、「アナログ」つまり「紙媒体」で管理するのが一番です。
「お金」と同じような「安全管理」をするということで考えればよいのです。
小規模零細事業者であれば、従業員の数もそう多くはないですし、それを社長しか開けられない金庫や鍵のかかるロッカーにしまっておけばセキュリティとしては十分です。
なお、わざと漏らしたのでなければ会社は刑事罰(罰金)には処せられません。
損害賠償などのリスクは、上記のような「安全管理措置」をきちんと行い、保険に入るなどの措置をとることにより減らせます。
何が必要で、何が必要でないのかをきちんと見極め、賢く「マイナンバー対応」をしましょう。(おわり)
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