今回は、少しマニアックな件について書いてみたいと思います。
技能労働者の技能の「見える化」システム
平成26年3月、国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課専門工事業・建設関連業振興室は、「将来にわたり建設産業の担い手を確保していく上で、技能労働者が適正な評価と処遇を受けられる環境の整備が求められている。このための手段の一つとして、本事業では、“建設技能労働者の技能の「見える化」”を実現するシステムの構築を目指すもの・・・」として、「技能労働者の技能の『見える化』システム基本計画書」を発表しました。
そこでは、建設技能労働者は、身につけた技能が適切に評価されず報われにくい環境となっており、一方で、事業者にとっても雇用しようとする技能者の能力評価を他事業者や紹介元からの評判等に頼らざるを得ない状況となっていることに鑑み、建設技能労働者の技能の「見える化」により、これらに対応するために
① 建設技能労働者が一人一人の技能に見合った適正な評価と処遇を受け、多様な業種で目標を持って自己研鑽すれば報われ将来展望も持てるような魅力ある就労環境づくりを進める。
② 建設技能労働者の効率的な活用を図ることで労働市場の合理化を図る。
③ 社会保険未加入対策を進める上で必要となる保険加入状況の確認の合理化・簡便化に資する。
という基本理念に基づき、当該「見える化」システムを構築する、となっています。
それを具体化したものが次のようなシステムの構築です。
建設技能労働者の経験が蓄積されるシステム
下図は、上述の「見える化」システムを具体化したもののイメージです。
「建設技能労働者の経験が蓄積されるシステムの構築に向けた官民コンソーシアム(国土交通省)第2回作業グループ (H27.12.2)資料3」より
では、このシステムの構築・導入により、どのような効果が期待されるのでしょうか。
それは下図に示されています。
「建設技能労働者の経験が蓄積されるシステムの構築に向けた官民コンソーシアム(国土交通省)第1回作業グループ (H27.11.4)資料3」より
このことは、平成28年3月2日に開催された、国土交通省中央建設業審議会第13回基本問題小委員会における
「基本問題小委員会における検討事項(課題と検討の方向性)資料3 24p(建設生産を支える技術者や担い手の確保・育成②)」でも言及があるように、大量離職時代に向けた中長期的な担い手の確保・育成の手段として、優秀な技能者を擁する下請企業の受注機会の拡大、技能者の処遇改善の促進のためにも期待されているものです。
しかしながら、これを民間企業であり、かつ、元請である大手ゼネコン側から見てみると、大手ゼネコンは、当該優秀な技術者を擁する企業を下請けとして選別することが比較的容易かつ簡易になり、また、優秀な技術者の「引き抜き」の資料として当該システムを活用することが考えられ、今後ますます下請建設業者の「生き残り」は熾烈な競争になるものと思われます。
なお、当該システムについては、大手ゼネコンで組織する(一社)日本建設業連合会が、平成26年12月22日付けにて、先の資料の出典元である国土交通省の「建設技能労働者の経験が蓄積されるシステムの構築に向けた官民コンソーシアム」に対して、「建設キャリアシステム(仮称)に関するご提案」なる意見書を提出しています。
また、当該システムは、平成28(2016)年度後半から試行運用を開始し、平成29年度(2017)年度には本格運用を開始することが予定されています。(※「技能労働者の技能の「見える化」システム基本計画書」(平成26年3月 国土交通省土地・建設産業局 建設市場整備課 専門工事業・建設関連業振興室)及び「就労履歴管理システム(仮称)の構築について(平成27年8月 国土交通省)にも記載あり)
行政書士はどのように関わるのか
このような、ごく近い将来における当該システムの構築・運用に対し、行政書士はどのように関わる余地があるのでしょうか。
その前に・・・実は、平成23年度には、すでに「(一社)法人就労履歴登録機構」という、建設技能労働者のスキル(技能)・キャリア(経験)を、建設業界全体で、登録・蓄積・活用する公的証明システム組織が発足・稼働しており、そこには、大手ゼネコン各社や「(独法)勤労者退職金共済機構建設業退職金共済本部(建退共)」、そして「(一財)建設業建設業振興基金」などが参加しています。当該機構は、先の、国が構築・運営する予定の「建設技能労働者の経験が蓄積されるシステム」の一翼を担うものであることは確実でしょう。
一方、行政書士は、建設業法上における企業の許認可申請の代理・代行者、つまりは、建設業者の経営やそこに所属する技術者の技能向上や配置等に関するコンサルタントとしての役割を果たしている現状があるにもかかわらず、業界としては、先の機構の賛助会員とはなっていません。ちなみに、当該機構の賛助会員は、ほとんどがASP事業者やベンダーなどの「技術的」分野の事業者です。
さて、先の、「建設技能労働者の経験が蓄積されるシステム」のイメージ図にもあるように、当該システムには、技術者「本人」に関する情報や事業者の情報の登録が必要です。これについて、冒頭の「技能労働者の技能の『見える化』システム基本計画書」には、第三者による入力代行について触れています。つまり、当該情報の真正性を確保するためにも、第三者による入力代行が必要なわけです。
私は、この「第三者」に、行政書士を活用すべきではないのか、そのように行政書士業界は動くべきではないのかと思うわけです。
また、当該登録する情報は、技術者においては「個人情報」であり、その取扱いには慎重を期さなければなりません。なお、当該システムにおける技術者本人の登録情報は、技術者自身が閲覧、活用できることとされており、自身の履歴書や実務経験証明書の作成支援機能などにより、当該書類(電磁的記録を含む)の作成の代行などということも考えられるわけです。
このような見地からすれば、守秘義務が法定され、建設業界、建設業関係行政担当部署にも相当程度認知されている、「第三者」としての行政書士を活用しない手はないものと、私は考えるわけです。
なお、当該システムは、(一社)日本建設業連合会の提案(意見)書にもあるように、マイナンバーとの連携利用も考えられることからすれば、マイナンバー制度はもとより、公的個人認証サービスや個人情報保護制度にも精通した行政書士を育成することは、この分野に限らず、これからの業界の未来を見据えたときに、あらゆる分野からの、それは必ず要求されるレベルであるものと私は考えています。
(おわり)
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