「空き家」にも種類がある
昨今何かと話題の「空き家」等問題ですが、実は、これは当然ながら一面的なものではありません。
「空き家」について言うならば、全国における「空き家」の総数は、総務省の「平成25年度住宅・土地統計調査」によれば、約820万戸です。
しかし一口に「空き家」と言っても、それには種類があります。その内訳は、①「二次的住宅」(別荘及びその他のたまに寝泊りする人がいる住宅)、②「賃貸用及び売却用の住宅」(新築・中古を問わず賃貸又は売却のために「空き家」になっている住宅)、③「その他の住宅」(①及び②以外の人が住んでいない住宅で、転勤や長期入院などのために長期にわたって居住者が不在の住宅や建替えなどのために取り壊し予定の住宅、また金銭上、税制上の問題から放置せざるを得ない状態に陥っている住宅など)があります。このうち、近年問題になっている「空き家」と言えば、③の「その他の住宅」です。
実は、この「空き家」の構成比率ですが、これも総務省の「平成25年度住宅・土地統計調査」によれば、一番多いのは②の「賃貸用及び売却用の住宅」で約56%。③の「その他の住宅」は約39%です。とはいえ、③の「その他の住宅」の増加率は大きいものがあり、やはり、「空き家」問題はまさにここにあるものと言えるでしょう。なお、空き家率(総戸数に占める「空き家」の割合)は13.5%です。
「不居住放置住宅」のすべてが「所有者不明住宅」ではない
当該「その他の住宅」であっても、そのほとんどが所有者(相続人等住宅を管理すべき者を含む。以下同じ。)が不明(連絡がつかないものも含む。)だというものではありません。むしろ「所有者はわかっているが、所有者が様々な理由によりそこに住まずに、管理せずに放置されているので、老朽化して防災性や防犯性、衛生面などからの危険性を有している住宅」というもののほうが多いのです。所有者がわかっていたとしても、適切な管理がなされていない、なす気がないのであれば、当該危険性の排除のために行政がやむを得ず当該住宅の解体(除去)を「代執行」にて行うという事例も散見されるというのが現状です。
「所有者不明」が多いのは実は「空き地」のほう
「所有者不明」ということで言えば、実は「空き地」つまり「土地」のほうが深刻かつ多数です。
「所有者不明土地問題研究会(増田寛也座長)」(※いわゆる「増田研究会」)の「中間整理(平成29年6月)」によれば、地籍調査によるサンプル調査を活用しての拡大推計ながら、全国の「所有者不明土地」の割合は約20%にも上り、その面積は410万haにも及ぶとあります。(※当該研究会には専門家(士業)委員として、弁護士業界、司法書士業界、土地家屋調査士業界、税理士業界、そして我が行政書士業界も名を連ねています。ちなみに、我が業界からは、私が懇意にさせていただいていて尊敬している方が参加されています。)
「所有者不明土地」については、様々な深刻な問題が存在します。公共事業における用地取得の困難さ、私道の公道化の困難さ、当該土地の管理(樹木・雑草等の繁茂、不法投棄ゴミの放置等)の問題、農地利用における支障、徴税の事実上の不能等々です。
「空き家」・「空き地」問題の本当の怖さ
このように、「空き家」や「空き地」には様々な問題が横たわっています。しかしながら、そこにある本当の怖さとは、「空き家」や「空き地」を生み出す“予備軍”の存在です。所有者はわかっていても、生活拠点がそこにないことから先祖代々の家や土地に対する関心の低下、維持管理費や物理的管理事務への負担感などから物件を放置して利活用をしようとしない人々、そしてそのまま年月が経過し、結果的に当該物件は「所有者不明」となるという「怖さ」です。
この抑止策として、国や先述の民間研究団体等はいろいろと施策を講じたり考えています。平成27年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」もその一つです。また、各自治体等においては、所有者確定のための探索措置、それを司法書士団体や行政書士団体に委託することや「空き家」の有効活用を通した当該自治体への定住促進による地域の活性化を図ることなどを目的として「空き家バンク」などを開設するなどしています。このほかにも、公共事業のために利活用できる受け皿づくりとしての土地所有権の放棄、寄付等制度や、将来の「所有者不明」を発生させないために、相続登記の促進のための施策(「法定相続情報証明制度」の新設等)や(相続)登記の義務化などの検討も行っています。
行政書士業界が真に取り組むべき「空き家」等問題対策
このように「空き家」・「空き地」対策には様々な取り組みがなされています。
例えば、司法書士団体などは、早くからこの問題に取り組み、所有者不明の「空き家」・「空き地」等の相続人等探索の委託を自治体等から受けて活躍されています。我が行政書士業界の一部の単位会も同様に行っています。また前出の「空家等対策の推進に関する特別措置法」第7条に規定する「協議会」の構成員となったりしている方もいます。しかしながら、これらの活動は、正直に言うと、私は、実に一面的な視点からのものであると思っています。もちろん、当該活動を否定するつもりなど毛頭ありませんが、この投稿の冒頭でも書いたように、「空き家」等の問題は多面性があります。
そうであるならば、我が行政書士業界は、他の士業と同様な活動を行うのではなく、別の視点からの取り組みを、つまり、他の士業にはできない取り組みを行うべきであると私は思っています。
平成29(2017)年10月25日、国土交通省から一つの告示が出ました。(平成29年国土交通省告示第965号)
それは「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する基本的な方針」です。これは平成19年国土交通省告示第1165号の全部を改正したもので、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」の規定に基づき、公表されました。それの「一 住宅確保要配慮者に対する 賃貸住宅の供給の促進に関する基本的な方向」の「6 住宅ストックの活用」には、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に当たっては、特に全国で住宅の空き家及び空き室が増加している状況を踏まえ、住宅ストックの有効活用を図ることが重要である。」とあります。また、「四 住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する基本的な事項」の「1 登録住宅の供給に関する基本的な事項」には「・・・地方公共団体においては、・・・空き家対策を行っている部局と連携を図り、空き家情報を活用し、所有者に有効活用する意向がある場合や、居住支援活動を行う法人等が住宅確保要配慮者のために活用したい意向がある場合等には、所有者に対して登録住宅として活用することを働きかけることも有効である。」ともあります。
この前提には、同じく平成29(2017)年10月25日施行の『改正 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」があります。そう、つまり、「住宅セーフティネット法」です。この法律は、高齢者、低額所得者、子育て世帯等の住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度など、民間賃貸住宅や空き家を活用した「新たな住宅セーフティネット制度」を規定した法律ですが、この法律は、下図にあるように、国の「新たな住生活基本計画(全体計画)(平成28年3月18日閣議決定)」に基づくものです。
(「国土交通省説明資料(住宅・不動産)平成28年11月18日」)より
ここにははっきりと「空き家の活用促進とともに民間賃貸住宅を活用した新たな仕組みの構築も含めた住宅セーフティネット機能を強化」とか、急増する空き家の活用・除却の推進のために「・・・介護・福祉・子育て支援施設、宿泊施設等の他用途への転換」という文言が書いてあります。
つまり、我が行政書士業界が真に取り組むべき、他士業にはできない「空き家」等問題への対策とは、まさにこれであると思うわけです。
「所有者不明」の「空き家」や「空き地」の相続人等探しやその結果の相続関係図や報告書の作成そしてそれの自治体への提出などということは、司法書士業界等にお任せすればよいのです。先述の、「空き家」や「空き地」を生み出す“予備軍”の防止のための(相続)登記の促進やその義務化への活動なども司法書士業界にお任せしていればよいのです。
我々行政書士業界としては、それらとは別の視点・角度から、当該“予備軍”の防止策や不明所有者が確定された「後」に当該所有者等に対して自治体を巻き込んでの「空き家」・「空き地」の利活用策にコミットしたりとか、そのために発生する許認可申請業務(住宅等関係)を代理・代行する(※いわゆる「民泊」事業もその利活用策として厳然と存在しますがここでは挙げていません。悪しからず。)という活動を展開してゆくべきであると思うのです。それが、今般の「新たな住宅セーフティネット制度」の活用であり、現在実施中の「高齢者向け住宅制度」の活用、そしていわゆる「民泊」制度の活用ということなのです。
これらの制度は、「住宅政策」と「福祉政策」のコラボレーションによるものです。(※なお、いわゆる「民泊」事業も観光庁という国土交通省の外局と厚生労働省が絡んでいます。)この複数分野において活躍できる士業は我々行政書士をおいてほかにありません。複数の省庁に跨る政策の実行、周知、敷衍を実現できるのは我々行政書士以外には考えられません。
そうであるからこそ、我が業界は、このような「空き家」等問題対策に今こそ挙げて取り組むべきであると思います。先日、日本行政書士会連合会から「会長声明」も出て、我々はこのことに積極的に取り組む方針が明確に示されました。この方針を、実は、我々行政書士業界が真に取り組むべき「空き家」等問題対策であるということを個々人の行政書士も強く意識をして各自の業務としても取り組むべきであると考えます。(おわり)
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