平成29年10月12日投稿
「新たな住宅セーフティネット制度」(2017.10.25施行予定)から発生または派生する行政書士業務について、簡易に表にまとめました。もう少し詳細なことはこの表の下の記事をご高覧下さい。
事業登録申請等業務 | Ⅰ 「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅(セーフティネット住宅)」の登録申請
① 新規申請 Ⅱ 居住支援法人の指定申請 ① 新規申請 ② ①の申請のための定款変更 ③ 当該支援事業計画・収支予算の認可申請(事業計画書・収支予算書の作成含む。) ④ 当該支援事業報告書・収支決算書の提出(事業報告書・収支決算書の作成含む。) Ⅲ 家賃債務保証業者の登録申請 ① 新規申請 ② 更新申請(※5年毎に必要) ③ 変更届出(※変更があったときから30日以内に必要) ④ 廃業届(※廃業該当日から30日以内に必要) |
補助金申請業務 | Ⅰ 住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業にかかる補助金申請(書類作成含む。) ※平成29年度スマートウェルネス住宅等推進事業(通称:スマウェル)の予算320億円中、一般住宅・一般賃貸住宅からセーフティネット住宅への改修費への補助金の申請業務のこと。 ※国の直接補助(当該補助制度)と国+地方自治体(※この補助制度とは別に、社会資本整備総合交付金等から行う補助制度に基づくもの)が行うものの2種類ある。ただし、この両者共の受領は不可。 ※平成29年9月25日~平成30年2月28日(当日消印有効)まで(郵送申請) ※書類提出先は、スマートウェルネス住宅等事業推進室。 ※交付申請要領、交付申請書等のダウンロードその他募集等詳細は、http://snj-sw.jp/ に。 Ⅱ 居住支援法人への当該居住支援活動への補助金申請(書類作成含む。) |
平成29(2017)年4月26日、新たな「住宅セーフティネット制度(法)」(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」)が公布され、平成29(2017)年10月25日から施行されます。
この法律は、増加する、住宅の確保が困難な高齢者や障害者、低額所得者、シングルマザー、外国人などの「住宅確保要配慮者」の住宅の確保の支援を行うための様々な施策を規定します。
いわば、住宅行政と福祉行政とのコラボによる社会的弱者のための制度です。
今般、この新たな制度が、行政書士業務と深く関わる、否、当該制度中に明確に行政書士業務が存在する、つまり、新たな行政書士業務が誕生するため、この記事を書くこととなりました。
行政書士はもとより一般の方々におかれても、この記事が当該新しい制度の理解の入口となれば幸いです。
1.新たな「住宅セーフティネット」制度の概要
「住宅確保要配慮者」の現状
高齢者(単身は特に)、ひとり親(特にシングルマザー)世帯、障害者、外国人、生活保護受給者は今後も増加傾向にあることは国の統計等からも明らかです。しかしながら、これらの人々の住宅の確保は非常に困難であるというのが現状です。大家さん側に、家賃滞納やいわゆる孤独死、事故や騒音等への不安から、これらの人々の住宅への入居に対する拒否感が存在することは、否めない、厳然とした事実です。
現行の「住宅セーフティネット制度(法)」の概要
平成19年に、議員立法にて「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成19年法律第112号)が制定され、下記のようなことを定めて現在に至っています。
目 的 | 住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭、その他住宅の確保に特に配慮を要する者)に対する賃貸住宅の供給の促進に関する施策の基本となる事項等を定めることにより、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進を図り、国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与すること。 |
国の基本方針 | 国土交通大臣は、住宅確保配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する基本的な方針を定めなければならない。 |
国及び地方公共団体の責務等 | ①国等による公的賃貸住宅の供給の促進
②国等による民間賃貸住宅への円滑な入居の促進、民間事業者による協力 ③国等による住宅確保要配慮者の生活の安定及び向上に関する施策等の連携 ④地方公共団体による地域住宅計画への公的賃貸住宅の整備に関する事項の記載 |
居住支援協議会 | 地方公共団体、宅地建物取引業者、賃貸住宅を管理する業務を行う者、居住支援団体等は、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関し必要な措置について協議す売るため、居住支援協議会を組織することができる。 |
引用:「新たな住宅セーフティネット制度(国土交通省住宅局)」説明会資料より
住宅・家賃の債務保証の現状
しかしながら、自治体(地方公共団体をいう。以下同じ。)においては、今後総人口が減少していく中において、公営住宅(公的賃貸住宅をいう。以下同じ。)は、その建替え等が行われてはいるものの、大幅な増加は見込めない状況となっています。そして何と言っても、公営住宅はその応募倍率が非常に高く、入居が困難な状況となっています。他方、民間においては、空き家や賃貸住宅の空き室が増加傾向にあります。
また、現在、賃貸住宅の入居者の家賃の債務保証については、保証会社による保証が増加していること及び改正民法(2020年5月までに施行される)によって、家賃の債務保証については保証人による連帯保証契約はその保証する限度額の設定が要件となるため、賃借人は連帯保証人の確保が困難になることが考えられることからも、やはり今後は家賃の債務保証は保証会社によるものが増加すると考えられています。
しかし・・・悲しいかな「住宅確保要配慮者」は、当該保証会社から保証を断られるケースがあるのです。これでは、現在「住宅セーフティネット制度(法)」が整備されているとはいえ、「住宅確保要配慮者」に対して手厚い保護とはなっていないというのが本当のところということになるでしょう。
そこで、近年、何かと話題のこの「空き家」を活用して、また民間賃貸住宅の「空き室」を活用し「住宅確保要配慮者」向けの住宅を確保できないのかという観点から、そして当該入居者への経済的支援、居住支援の更なる充実、つまりは、住宅セーフティーネット機能の強化を図るため、現行の「住宅セーフティネット法」(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)の一部を改正(※実のところはかなりの強化改正です。)し、“新しい”「住宅セーフティネット制度」を導入することとしたのです。
新しい「住宅セーフティネット制度(法)」の全体像とその概要
改正事項の概要については下記のとおりです。
なお、以下、当該制度と行政書士業務との関連が深い事項等を抜粋して説明しています。予めご承知おき下さい。
1. 地方公共団体による住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の供給促進計画の策定 2. 住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度 ①住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設 ②登録住宅の情報開示・賃貸人の監督 ③登録住宅の改修費を住宅金融支援機構の融資対象に追加 3. 住宅確保要配慮者の入居円滑化 ①住宅確保要配慮者の円滑な入居を支援する活動を公正かつ適確に行うことができる法人を居住支援法人として指定すること ②生活保護受給者の住宅扶助費等の代理納付※ を推進するための措置を講ずること ※ 本来、生活保護受給者が賃貸人に支払うべき家賃等を、保護の実施機関が賃貸人に直接支払うこと ③適正に家賃債務保証を行う業者について住宅金融支援機構による保険の引き受けを可能とすること |
出典:「新たな住宅セーフティーネット制度(国土交通省住宅局)」説明会用資料
2.新たな「住宅セーフティネット」制度における行政書士業務
「セーフティネット住宅」の登録申請
上記図にもありますが、当該制度においては、「住宅確保要配慮者」のために、その人々が入居することを拒まない賃貸住宅(いわば「セーフティネット住宅」)を都道府県、政令市、中核市に「登録」することが可能になります。
この「登録」は義務ではありません。しかしながら、この「登録」をすれば、そのセーフティーネット住宅に改修(※後程述べますが、セーフティネット住宅には登録基準があり、その登録を満たすためにはそのための改修を行う必要も出てくるのです。)するための補助金が国と自治体から出るとか、家賃や入居時の家賃債務保証料を下げて入居しやすくするために要した費用を国と自治体から補助が出るとか、居住支援(家賃債務保証や相談・見守りなどの生活支援等)を受ける入居者が入居してくれるなど、「空き家」の利活用や「空き室」問題に悩んでいた大家さんなどにとってみれば、メリットとなることが結構あります。
もちろん、大家さん側から見たもののみならず、「住宅確保要配慮者」である入居者側にとっても、当該住宅の登録は意味のあるものとなるわけです。
さて、では、この「登録」をするには具体的にどのようなことが必要になるのでしょうか。
この「登録」のための基準の案や「登録」手続き(登録申請等)の案については、本記事執筆現在(平成29年7月)、下図のようになっています。(※今後の省令や告示の内容により変更される可能性があります。)
この「登録」手続き(登録申請)の代理・代行は行政書士の「専管業務」であり、ご自身で手続きをしない大家さんは、この手続きを行政書士に依頼することとなるわけです。
なお、この手続きを、有償にて不動産業者さんや設計事務所さんなどの非行政書士が行うと行政書士法違反になりますので、くれぐれもご注意ください。
(※「手続き」とは、国のシステム上に入力するための当該電磁的記録の作成及びそれをプリントアウトした紙媒体の申請書その他添付書面の提出を都道府県等官公署に対し行うことをいいます。この場合、当該電磁的記録の作成は行政書士の専管業務となります。)
なお、同種の「サービス付き高齢者向け住宅」の登録申請等手続きも同じく行政書士の専管業務ですので改めてここに付記しておきます。
出典:「新たな住宅セーフティネット制度(国土交通省住宅局)」説明会用資料
なお、当該「登録」には「更新」はありません。ただし、登録事項に変更(登録した「住宅確保要配慮者」の種類を変更する等)があった場合には変更手続きが必要です。なお、登録の抹消も可能です。
「居住支援法人」の指定申請・指定後毎事業年度開始前及び終了後における認可申請及び報告書の提出
上記の「登録」をした「セーフティネット住宅」に入居する「住宅確保要配慮者」への家賃の債務保証を行ったり、「住宅確保要配慮者」に対する賃貸住宅への円滑な入居に係る情報提供や相談そして見守りなどの生活支援などを業務(事業)として行う法人を、当該法人の申請により都道府県が「居住支援法人」として「指定」することができます。
この「指定」は義務ではありません。この「指定」を受けなくとも「住宅確保要配慮者」の支援はすることができます。しかしながら、この「指定」を受けた法人は、上記のような業務(事業)に要する費用の補助を、1,000万円/年を限度として、国から受けることができます。また、「住宅確保要配慮者」への家賃の債務保証事業を行う業者に対して住宅金融支援機構が行う保険引き受けは、この「指定」を受けている法人が要件となっています。
この「指定」を受けることができる法人は、NPO、公益・一般社団法人、公益・一般財団法人、社会福祉法人、そして上記のような居住支援を事業目的とする会社等です。
このような「指定」申請の代理・代行も行政書士の専管業務です。
なお、この「指定」を受けた「居住支援法人」は、上記の業務(事業)を必ずしもすべて行う必要はありません。ただし、法人の「定款」に各業務(事業)を行う備えがなければなりません。(※都道府県が申請審査時に確認します。)このような定款変更のための手続き(※登記申請は除く)の代理・代行も行政書士業務であることを付記しておきます。
さらに、この「指定」を受けた「居住支援法人」は、毎事業年度開始前に、当該支援業務に係る事業計画及び収支予算を作成し都道府県知事の認可を受けなければなりません。(それを変更しようとするときも同じです。)そして毎事業年度終了後3カ月以内に、当該支援業務に係る事業報告書及び収支決算書を作成し、都道府県知事に提出しなければなりません。これらの手続きの代理・代行も、行政書士業務です。
「居住支援法人」の「指定」の基準及び「指定」申請に必要な書類、そして「指定」後に必要な手続きについては、下図のとおりです。
出典:「新たな住宅セーフティーネット制度(国土交通省住宅局)」説明会用資料
今後の「住宅セーフティネット制度」に関するスケジュール
“新たな”「住宅セーフティネット法」、つまり改正法の施行は、平成29年10月25日の予定です。
施行に向けて、下図のように、様々な施策が順次行われる予定です。
出典:「新たな住宅セーフティネット制度(国土交通省住宅局)」説明会用資料
まとめ
最後に、当該“新たな”「住宅セーフティネット制度」は、冒頭にも書いたとおり、住宅行政と福祉行政のコラボによるものです。
したがって、単純に、住宅に関する登録や指定の申請という新規行政書士業務が誕生するということにばかり目を奪われることなく、「福祉」の立場からもこの制度を眺めることが大切です。
以下は、平成29年7月から始まった「住宅セーフティネット制度」に関する説明会において、同時に「厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室」の配布・説明した資料の一部です。
出典:「福祉分野における居住支援 生活困窮者自立支援の立場から」(厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室)説明会用資料
そこには、市区町村が、地域の社会福祉法人やNPO等に対して「居住支援法人」への「指定」申請を働きかけるとともに、当該「指定」を行う都道府県に対し、「指定」審査時において極めて重要な「市区町村の福祉部局の推薦」に協力して行く、と記載されています。
このようなことを見逃すわけにはいきません。制度が開始されれば、当該「指定」申請代理・代行のための既存法人の定款変更やそれに伴う各種手続き、支援業務を行う法人の新規設立、事業拡大等のためのコンサルティングなどなど、行政書士がお手伝いできることが少なからず出てくるでしょう。社会福祉法人の法定された義務事業である「地域における公益的取組」などにも直結してくることでもあります。
このような状況にあって行政書士は、その業界挙げてこの制度に対応する必要があると思っています。他の士業にできないことを、率先してやっていくべきだと思うのです。ちなみに、「居住支援法人」は、基準を満たせば行政書士団体でも「指定」を受けることは可能です。(国交省担当者に確認済みです。)業界としては、「社会貢献」という側面からもこの制度を積極的に利用すべきとも思います。
住宅行政と福祉行政にまたがる分野の専門家として、国民のみなさまのために、少なくとも筆者個人は微力を尽くそうと思っています。
(おわり)
こんにちは。数週間前にお電話にてお問い合わせさせていただきました、株式会社アドバンス専任の宅地建物取引士の大澤です。
その際は、お忙しい中大変ご丁寧に対応していただきありがとございました。
この新しい住宅セーフティネットが施行されるまで、1ヶ月を切りました。私が所属しております会社も「居住支援法人の指定」を受けるために四本先生のお力をお貸しいただきたく願っております。
先立ちまして、何かしておく事などがございますでしょうか?お手数ですが、ご教授いただけますと幸いです。
よろしくお願い致します。
大澤様
ご連絡(コメント)をいただき、有難うございます。まずは御礼を申し上げます。
支援法人指定申請ですが、ほぼ同様であるとは思いますが、指定基準は各都道府県によりますし、また市区町村の福祉部局からの「推薦」なども考慮される等のこともあります。
なお、まずは、どのような「支援」事業を行うのか(家賃債務保証・情報提供や相談・見守り等の生活支援など)をお決めいただいて、御社の定款にてそれを整備(目的変更登記含む)しておく必要があります。いずれにしましても、御社の所在する県や市町村の担当部局と事前に情報収集も含めて協議等を行っておく必要はあるのかなと思います。
また、支援事業への国の補助事業の募集も10月下旬には始まるようですし、その辺にも留意が必要だと思います。
指定後の年度報告もありますし、なかなか大変だと思います。
当方も、今回の制度は初めてのものですし、これからいろいろと勉強していかなければなりません。
微力ながら、当方の可能な範囲ですが、お手伝いをさせていただこうと思います。
以上、宜しくお願いいたします。